第15話
僕たちの時間
3
僕たちが知り合ったとき、グズラこと栗沢和夫は自分 を仙台市の出身といっていた。もう少し詳しくいえば仙 台市に程近い塩竃市(しおがまし)というところらしい。 宮城県仙台市ならば誰でも知っている大都市だけれど、 塩竃市と聞いてたちどころに「ああ、あそこか」とイメ ージできる人間はそう多くはない。面倒だから仙台市で も良いと判断した。確かにグズラの家が何処にあろうが この溝口屋敷に居住する青年たちの歴史に重大な問題を 引き起こすこともなかろう。 グズラの家はその仙台市に暖簾を出す和菓子屋という ことだった。 かなりの歴史を持った旧家らしかったが、これもまた 本人の申告によるものでしかない。 グズラはおっとりとした口数の少ない、優しい性格の 持ち主に見えた。多分この観察結果は間違ってはいない と思う。 グズラがもうひとつ違った一面を持つことにはじめて 気付いたのはテツだった。 「今日グズラは来るんかのう?」 アルバイトに出ようとする僕をテツが呼び止めた。 初めての夏休みを終えて溝口屋敷に戻ったあの宴席の 日から、さらにまた一年以上過ぎた頃のことである。僕 たちは皆二年になり、すっかり学生生活にも慣れて、こ れぞ大学生といわんばかりに振舞っていた。 僕を呼び止めたテツの表情はなぜか嬉しそうにニヤニ ヤしていた。 |
|
||||||||
© 2010 SOFTBANK Creative Corp. ALL rights reserved.

